Thinking In The Past.

アスリートの方へ -コメントを求められた時、今どうすべきか-

2021.05.13

社会全体が新型コロナウイルスに翻弄される中、本当にたくさんの人がそれぞれの持ち場で頑張っていらっしゃいます。またあまりにも不条理な状況で、被害をほとんど受けていない方も、大変な状況に追い込まれている方もいらっしゃいます。私は新型コロナウイルスが引き起こしていて今後にずっと尾を引くであろう恐ろしいことは、お互いが憎み合い社会を信用できなくなることではないかと考えています。すでに社会は分断の兆しを見せています。この分断を広げないようにすることが大切です。

このような状況の中、東京五輪開催の是非が問われています。数年前には多くの人に応援され、期待されていたアスリートたちが今は開催するかどうかの間で板挟みになっています。本当に心を痛めている選手も、そしてそう感じている応援者の方も多くいらっしゃいます。私は引退した身ですが、選手の皆さんに何か貢献できることはないかと考えた結果、今自分が選手であったらこうコメントするだろうというポイントをまとめてみました。参考になれば幸いです。

ポイントは三つです。
①東京五輪開催への賛否には何があっても触れない
②必ず最初に社会の中で一番苦しんでいる人を想像する
③自分の役割をきちんと認識し、やるべきことをやり、その範囲を出ない。

まず、東京五輪が開催できるかどうか、するべきかどうかは私であればもう選手の手を離れたと考えます。今回はあくまでホスト国ですから日本だけではなく他国の状況や考えも踏まえて、然るべき専門家がデータ(複雑系なのでおそらく答えは出ませんが)をもとに議論し、決定をするべきだと思います。私も五輪を志した選手の一人ですから五輪がなくなった時の気持ちは痛いほどわかりますが、そういう次元を越えたと判断した方がいいです。
その上で選手それぞれの思いがあると思います。賛成の人も反対の人もいるはずです。けれども、こういうことに対し選手が賛成反対を出し始めると、次に起きるのは選手間の分断です。ただでさえ極限のプレッシャーにさらされ、普通ではあり得ない状況に置かれている中ですから、ここでの分断は選手やスポーツ界に大きな傷を残すのではないかと危惧しています。ですから、意思決定者に委ねるということを私であれば徹底します。具体的にはこう答えます。

「私は選手である前に一市民として、皆さんにとって良い決定を望みます。五輪の開催可否は専門家の方々が然るべき決定をしていただけると考えています。私はその決定に従います。」

次にこの新型コロナウイルスはあまりにも不条理な状況を生んでいます。資産が膨らんでいる人も、今日食べるものもない状況に追い込まれている人もいます。私自身全ての状況を知っているわけではありませんが、友人に何人も苦しんでいる方の支援をしている人間がいますから情報が少しは入ります。本当に食べるものがない、買えないという家庭もあります。そのような人たちが今どんな生活をしているかを完全にではなくても想像するようにし、常に配慮することが大事です。これは何もいつも自分がしゅんとしていなければならないということではありません。みなさん精一杯生きていますから、そこは胸を張って生きていけばいいです。ただ、コメントをする際には自分の目の前に一番苦しんでいる人がいるとイメージしてそういう人にどんな言葉を掛ければいいかを考える必要があります。自分の状況に感謝をすることです。具体的にはこう答えます。

「私自身はこのように自分の夢を追いかけられる状況に感謝しています。大変な状況に置かれている方々への支援が行き届くように願っています。私自身は私自身のやるべきことを通じて、何か力になれればと思います」

最後に、みなさん重々承知していると思いますが、勝負は残酷ですから結局集中して準備をした人が勝ちます。五輪が開催されることになればそこに希望を見出そうとしている人もいるわけですから、自分なりの精一杯のパフォーマンスをする必要があります。また選手の皆さんもそうしたいでしょう。
これが一番辛いことだということはよくわかった上で申し上げますが、「開催されるかどうかわからないものに対し、開催されるという前提であのきついトレーニングを淡々とこなす」必要があります。あくまで選手の皆さんの日々の行動は「開催される前提」で動くわけです。このないかもしれないものをあると信じ込むことがどれだけ辛いかはなかなか周囲にはわかってもらえないかもしれませんが、私にはよくわかります。それでも皆さんはやらないといけません。後数ヶ月間だけそれを頑張ってみてください。質問に具体的にはこう答えます。

「五輪の開催可否はもちろん決定に従います。ただし、開催された場合は選考に落ちた選手もいて未来の選手である子供たちもみている中で代表に選ばれていますから、日本代表として胸を張って精一杯のパフォーマンスをできるように準備をします。今の自分の役割はそれしかないと思います」

試合が続きコメントを求められることが多く大変だと思います。これはあくまで私の考えですが、皆さんの参考になればと思います。